コーチングとは何か? ティーチング、コンサルティングとの決定的な違い

コーチングの本質は「引き出す」こと
30年以上にわたり、私は製造業の現場で働いてきました。スタッフから管理職、そして海外拠点の代表を務める中で、私の仕事に対する考え方は大きく変化しました。その転機となったのが、海外駐在中に出会った「コーチング」という手法です。
部下の一人、Aさんとの面談の際のこと。当時の私は、コーチングを学び始めたばかり。ぎこちない面談ながら、懸命にAさんの話に耳を傾け、持論を押し付けることをグッと堪えました。そして最後は、Aさんの提案を受け入れ、任せることにしたのです。Aさんは涙を浮かべて喜び、その後も目を輝かせて仕事に取り組んでくれました。私は衝撃を受けました。人は、自分の内側に輝きを秘めている。その瞬間、コーチングの真髄を感じたのです。
では、コーチングとは一体何なのでしょうか?端的に言えば、相手の内なる力を「引き出す」ことに徹するコミュニケーション技術です。それは、ティーチングやコンサルティングとは、根本的に異なるアプローチだと言えます。
ティーチング:教え込む
ティーチングとは、知識やスキルを教え込む指導スタイルです。
- 「教える側」と「教わる側」の上下関係がある
- 短期的なスキルアップには効果的
- 受け身な姿勢を生みやすい
コンサルティング:答えを出す
コンサルティングとは、専門的知見に基づいてアドバイスや解決策を提示することです。
- クライアントの抱える問題や課題にフォーカスする
- コンサルタントの知見に依存しがち
- 自発性や当事者意識が生まれにくい
コーチング:引き出す(共に考え伴走する)
一方、コーチングは次のような特徴があります。
- 相手の話に耳を傾け、内省に問いかけ内なる力を引き出すサポート
- 相手と共に考え、歩みを寄り添う伴走者としての存在
- コーチとクライアントは対等な関係性
- 相手の自発性、主体性を重視し長期的な自立心、行動力、問題解決力を育む
つまりコーチングとは、ただ「引き出す」だけではなく、相手と共に考え、寄り添いながら内なる力を開花させていくプロセスなのです。これこそが、ティーチングやコンサルティングとの決定的な違いだと言えるでしょう。
データが示すコーチングの有効性
コーチングがティーチングやコンサルティングと決定的に異なる点は、相手の内発的な行動変容を引き出す力にあります。その有効性は、データからも明らかです。
ICF(国際コーチング連盟)の調査によると、コーチングを受けた人の約70%が、目標達成度や自己認識、自信の向上において大きな改善を実感したと報告しています
出典:ICF Global Coaching Client Study
また、HBR(ハーバードビジネスレビュー)の記事では、企業の幹部を対象にコーチングを実施したところ、生産性が53%向上し、品質が48%改善されたという事例が紹介されています
出典:HBR “The Hard Side of Change Management”
こうしたデータは、コーチングが個人と組織の両面で大きなインパクトを生み出すことを示唆しています。
新しいリーダーシップのあり方
さて、あなたは日々、部下やメンバーとどんな対話をしていますか?
たとえ部下から求められても、すぐに答えを言わない。まずは耳を傾け、問いかけ、共に考えるきっかけを与える。時には寄り添いながらも、最後は「任せる勇気」を持つ。一つひとつは小さな積み重ねかもしれません。でも、その姿勢こそが周囲の意欲を引き出し、強い組織をつくると、私は信じています。
変化の時代に求められるリーダーシップ。それは、もはやティーチングでもコンサルティングでもない、新しい対話のあり方。つまり、コーチング・マインドなのです。
実際、グローバル企業の調査では、上位10%の高業績チームには、ほぼ例外なくコーチング・スキルに長けたリーダーがいることが分かっています
(出典:Google “Project Oxygen”)。
一人ひとりの内なる輝きを信じ、共に歩む。そんな文化を育んでいきたい。
データが示すコーチングの威力を活かし、コーチング・マインドを大切にする組織を、共につくっていきましょう。
コーチ&メンタージャパン髙木明宏