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「やらないこと」を決める勇気 ~自分軸で描く本当の優先順位~

目次

はじめに

私が韓国のチョナン市で工場改善プロジェクトを担当していた頃のことです。

PDCA仕組み構築のため現地に赴任し、たった3週間という短期間でできるだけ多くの改善を実施しようと意気込んでいました。
朝は7時に出社し、夜は9時、10時まで働くことも珍しくありませんでした。
やることリストは日に日に増え、そのすべてが「重要」と思えるのです。

ある日、私の様子を見かねた韓国人の工場長が言いました。
「高木先生、韓国には『서두르면 일을 그르친다(ソドゥリミョン イルル クルチンダ)』—急ぐと仕事を台無しにする—という言葉があります。
日本の『急がば回れ』と同じですね。時には立ち止まって優先すべきことを見極めることが、最も早い道なのです」

確かに私は「どれだけの仕事をこなせるか」という量的思考に陥っていたのです。
その結果、疲弊するばかりで、本当に重要な課題に集中できていませんでした。

この経験から私は気づきました。

究極の優先順位設定は、やる順番を決めることではない。やらない仕事を決めることであると。

「量」と「質」の思考の違い

量的思考とは何か?

量的思考とは、「どれだけ多くの仕事をこなせたか」を成果の物差しにする考え方です。
この思考に支配されると、私たちは次のような行動パターンに陥りがちです。

  • チェックリストを埋めることが目的化する
  • 簡単にできる仕事から手をつける
  • 「忙しいこと」自体が価値あることと錯覚する
  • 目に見える成果を急ぐあまり、長期的な視点を失う

量的思考の最大の落とし穴は、「仕事の量」がどんどん膨れ上がることです。
「あれもこれも」と手を広げすぎて、結局どれも中途半端になってしまうのです。

質的思考がもたらすもの

一方、質的思考とは「どの仕事に取り組むべきか」を見極める考え方です。

質的思考では

  • 組織や自分にとって「真に価値ある」仕事を特定する
  • 少数の重要課題に集中する
  • 長期的なインパクトを重視する
  • 「やらないこと」を明確に決める

質的思考は単に「楽しい仕事だけをする」という意味ではありません。
むしろ、真に成果を生み出す仕事に集中するということです。
それは時に難しい課題かもしれませんが、長期的な価値を創出する仕事なのです。

韓国での経験

実はこの「質的思考」への転換こそが、韓国チョナン市での短期プロジェクトを成功させた大きな要因でした。


韓国人工場長のアドバイスを受け、私たちは「生産管理システムの導入検討」「品質チェックポイントの明確化」「現場の5S」という3つのテーマだけに集中することを決めました。

当初、私のリストには15以上の改善項目がありました。
生産ラインの再配置、在庫管理方法の変更、標準作業書の見直しなど、どれも「必要な改善」に思えたのです。
しかし、工場長と対話する中で、「今、最も重要なのは何か」という視点で見直したのです。

そして、残りの課題やプロジェクトは、思い切って「今はやらない」と決断しました。
この決断は簡単ではありませんでしたが、3つのテーマに集中したことで、わずか3週間という短期間でも目に見える成果を上げることができたのです。

「やらない」決断の難しさ

「でも、すべてが重要に思えるんです」とあるクライアントが言いました。
彼は中小企業の経営者で、業務過多に悩んでいました。

私はこう答えました。
「全てが優先順位が高い状態はあり得ません。それは優先順位を決めていないのと同じです。
明確な基準を作れば、すべてのものに順番をつけることができるのです」

確かに「やらない」と決めることは簡単ではありません。
私も韓国での改善プロジェクトの際、「この改善も必要だろう」「あの取り組みも大事だ」という思いと常に闘っていました。

しかし、もっとやりたいという欲を断ち切る勇気も必要なのです。

自分軸を作る ~決断の基準となるコンパス~

では、どうやって「やる・やらない」を決めればよいのでしょうか?

私がクライアントにお伝えしているのは「自分軸のベスト3」というフレームワークです。
自分にとって大切な価値観や基準を3つ選び、それぞれにウェイト(重み)をつけるのです。

例えば、ある管理職のクライアントは次のように設定しました

  1. やりがい(50%)
  2. 報酬(30%)
  3. 場所(20%)

彼はこの基準を使って、目の前の仕事や案件を評価するようになりました。
「やりがいは感じるけれど、場所的に無理がある」「報酬は良いが、やりがいが感じられない」
など、自分の価値観に照らして判断できるようになったのです。
この「自分軸」を持つことで、彼は何を「やらない」かの決断が以前よりずっと容易になりました。

そして、本当に重要な仕事に集中することで、チームの成果も向上していったのです。

組織にも「やらない」決断が必要

実は、この「やらないことを決める」という考え方は、個人だけでなく組織にも当てはまります。

多くの企業が「選択と集中」という言葉を使いますが、実際には「集中」だけで「選択」—つまり「やらないこと」を決める—ができていないことが多いのです。

韓国のプロジェクトでは、工場長と一緒に「今は取り組まない改善項目」をリスト化し、会議室の壁に貼りました。
これにより、チーム全員が「何に集中すべきか」を明確に理解できるようになったのです。
結果的に、3週間という短期間でも核となる改善を成功させることができました。

あなたの「やらないリスト」を作ろう

あなたは今、どのような「量的思考」に陥っていませんか?
すべてをこなそうとして、かえって重要なことに集中できていないことはありませんか?

ぜひ、自分の「自分軸ベスト3」を考えてみてください。

そして、その基準に照らして「今はやらないこと」のリストを作ってみてください。
決して簡単なプロセスではありませんが、この勇気ある決断が、あなたを本当に重要なことへと導いてくれるでしょう。

「やらないことを決める」ことは、実は「自分が本当にやりたいこと、やるべきこと」を明確にすることでもあります。

自分軸という内なるコンパスを頼りに、真に価値ある仕事に集中する—それが、リーダーとしての真の生産性向上につながるのです。

株式会社コーチ&メンタージャパン 代表 高木明宏


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この記事を書いた人

髙木 明宏のアバター 髙木 明宏 株式会社コーチ&メンタージャパン 代表取締役

製造業で30年ラインスタッフ、製造管理職、海外拠点代表を経験してきました。
タイ駐在時にコーチングを知り社内へ導入、自らトップダウン型からコーチング型マネージャーを目指し、次世代のリーダー、マネージャーたちの自発性を引き出し主体性を育て、帰国後も組織力強化の為、マネージャークラスへコーチングプログラムを実施してきました。

マネージャー達の行動の変容に手応えを感じ、自ら社会へ向けて発信していき、国内や海外駐在の日本人、リーダー、マネージャー、経営者に向けてコーチングで関わり、世の中のリーダーをより元気に主体性を持たせ日本企業の組織力を高めていくことに関わっていきたいと思います。

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