vol.88 「被害者意識」はなぜ生まれるのか 〜「未完了」を「完了」させる関わり方〜

なんで、私ばかり
「なんで、私ばかり怒られるんだろう」
「急ぎの仕事は、いつも私のところに来る」
「ちゃんとやっているつもりなのに…」
あなたの職場に、こんな被害者意識を抱えた部下はいませんか?
言葉に出さなくても、目が語っている。ため息に滲み出ている。そういう人達を、私はこれまでのコーチングの現場で何度も見てきました。
被害者意識になってしまう部下は、決して「弱い人」でも「困った人」でもない。むしろ、一生懸命やっているからこそ、そう感じてしまうのです。
被害者意識が生まれるとき
「なんで?」という問いに、答えが返ってこない
被害者意識が生まれるとき、そこには必ずひとつの共通点があります。
それは、部下の気持ちが確認されていないということです。
急な仕事を頼まれる。理由も説明されないまま注意される。仕事量が自分だけ多い気がする。でも、その「なんで?」という問いに、誰も答えてくれない。気持ちを聞いてもらえないまま、物事だけがどんどん進んでいく。
この状態を、心理学では「未完了(アンフィニッシュト・ビジネス)」と呼びます。
消化されないまま残った感情は、心の中でくすぶり続けます。そしてそれが積み重なったとき、「私はいつも損をしている」「私だけが辛い」という被害者意識へと発展していくのです。
ゲシュタルト心理学の観点からも、未完了の感情は人の思考と行動に大きく影響することが示されています。
参考:Perls, F.S. “Gestalt Therapy”
受け身な人ほど、被害者意識を感じやすい
ここで、もうひとつ大切なポイントをお伝えしたいと思います。
被害者意識を感じやすい部下には、ある共通した特徴があります。それは、仕事を「自分で選んでいない」と感じているということです。
言われたからやる。頼まれたからやる。自分の意志とは関係なく、仕事がただ降ってくる、そういう受け身の状態にある部下ほど、「なんで私ばっかり」という感覚に陥りやすいのです。
逆に言えば、自分で仕事を選んだり、目標を決めたりした経験がある部下は、同じ量の仕事を抱えていても被害者意識を感じにくい。これは、心理学で言う「自己決定感」と深く関わっています。
自己決定理論(Deci & Ryan, 1985)によれば、人は自分で選択・決定できると感じるとき、内発的動機づけが高まり、困難な状況でも主体的に取り組めるとされています。反対に、常に受け身で指示を待つだけの状況では、モチベーションは低下し、不満や無力感が蓄積されやすくなります。
上司として大切なのは、「この仕事、あなたはどうしたい?」と部下に選択肢を渡すことです。小さなことでいい。「どちらの順番でやる?」「どのやり方が合ってる?」その一言が、受け身だった部下を主体的な存在へと変えていきます。
上司がすべき、たったひとつのこと
では、具体的にどうすればいいのか。
私がいつもお伝えするのは、「まず、部下の『なんで?』を完了させてあげてください」ということです。
難しいことではありません。たとえば、急ぎの仕事を頼む前に一言添えるだけでいい。
「今日、急で申し訳ないんだけど、あなたにお願いしたい理由があって——」
この一言があるだけで、部下の「なんで私ばっかり」という感情は大きく変わります。理由がわかれば、人は納得できる。納得できれば、被害者意識は生まれにくくなる。
どんなに正しい指示や指摘であっても、「なぜそうなのか」が伝わらなければ、部下の心には不満だけが残るのです。
被害者意識を生まない職場のつくり方
私がコーチングの現場で大切にしている対策を、ここでいくつかご紹介します。
まず、仕事の意味を伝え、部下の意見を聞く場をつくることです。「この仕事、あなたはどう思う?」と聞くだけで、部下は「自分はこの職場の一員なんだ」と感じることができます。
次に、仕事量の偏りに気づくこと。「急な仕事はあの人に」「厄介な案件はあいつに」——知らず知らずのうちに、特定の部下に負荷が集中していることがあります。マネジャーは意識的に、チーム全体の仕事量のバランスを見渡す必要があります。
そして、部下が自分で選び、決める機会をつくること。仕事の進め方や優先順位を、できる範囲で部下自身に決めさせてみてください。それだけで、受け身だった部下の表情が変わることがあります。
Gallupの調査(2023年)によれば、上司から「自分の意見が大切にされている」と感じている従業員は、エンゲージメントが著しく高く、離職率も低いことが示されています。
出典:Gallup “State of the Global Workplace 2023”
あなたの職場を振り返るセルフチェック
□ 部下に仕事の意味や背景を伝えているか?
□ 部下が「こうしたい」と思っていることを聞く場があるか?
□ チーム内で仕事量に偏りが生じていないか、日常的に把握しているか?
□ 特定の部下だけに指示や依頼が集中していないか?
□ 部下自身が仕事の進め方や目標を決める機会をつくっているか?
□ 部下の不満やモヤモヤを、業務改善のヒントとして受け取っているか?
チェックの数は、部下の気持ちのバロメーターでもあります。
チェックが少ないほど、誰かが心の中で「なんで私ばっかり」とつぶやいているかもしれません。
あなたのチームは、今どうでしょうか?
「完了」させることが、信頼のはじまり
「なんで私ばっかり」という部下の言葉の奥には、「私のことを見てほしい」「私の気持ちを知ってほしい」というSOSが隠れています。
その未完了の感情を完了させてあげること。そして、受け身になってしまっている部下に、小さな「自分で選ぶ」体験を渡してあげること。
それが、部下との信頼関係をつくる、もっともシンプルで、もっとも大切なマネジメントの仕事だと私は思っています。
もし「自分のマネジメントを見直したい」「チームをもっと良くしたい」と感じていただけたなら、一度コーチングの体験セッションにお越しください。
あなたのチームに合ったヒントを、一緒に探しましょう。→ 体験セッションのお申込み・お問い合わせ
株式会社コーチ&メンタージャパン
ビジネスコーチ 高木明宏
