vol.90 「アサーティブ」な自己主張が、お互いをWin-Winに導く

我慢の果てに、感情が爆発した日
少し前のことです。
ある物流センターの所長、Bさん(仮名)とコーチングセッションでご一緒したときのお話です。
Bさんは責任感が強く、面倒見もよい方で、部下からも慕われていました。ところがその日、お会いするなり、ぽつりとこうおっしゃったのです。
「もう、限界です。なんで私ばかり、こんなに我慢しないといけないんでしょうか」
聞けば、若手の部下が約束した期限を何度も守ってくれない。最初は穏やかに声をかけていたBさんですが、毎回「すみません」と言うだけで改善されない。そして数日前、ついに感情が爆発し、強い言葉で叱責してしまったとのことでした。
「叱った後の部下の顔が、忘れられなくて。でも、ずっと我慢してきた私も悪かったのでしょうか」
Bさんは、ずっと「波風を立てたくない」と思い、本当に伝えたいことを飲み込み続けていたのです。
アサーティブネスという考え方
あなたにも、こんな経験はありませんか。
部下に伝えたいことがあるのに、関係を悪くしたくなくて飲み込んでしまう。あるいは、ためにためた感情がふいに爆発して、後で深く後悔する。
実は、Bさんに限らず、日本のビジネスシーンでは「我慢する」か「ぶつける」かの二択になりがちです。けれども本当は、その間に、もうひとつ大切な選択肢があります。
それが、アサーティブネスという考え方です。
自己主張には3つのタイプがある
アサーティブネスとは、「自他を尊重した自己主張の手法」と定義されます。自分が思っていることを、相手の立場や態度に影響されることなく、素直に表現・主張できる。そんな状態を目指すコミュニケーショスキルです。
自己主張のスタイルは、大きく3つに分けられます。
①攻撃的(アグレッシブ)自分:Win/相手:Lose
自己主張は強いものの、感情的になりやすく、相手を傷つけてしまうタイプ。短期的に結果は出ても、長い目で見ると信頼関係を失います。
②受け身的(パッシブ) 自分:Lose/相手:Win
自分の意見や感情を表に出さず、相手を優先するタイプ。波風は立ちませんが、ストレスを抱え込み、やがて自分が不利益を被ります。
③アサーティブ 自分:Win/相手:Win
自分の考えを率直に伝えながら、相手の立場も尊重するタイプ。冷静に話しつつ、必要なときは感情も誠実に伝えます。双方にとって有益な落としどころを探る姿勢です。
爆発したBさんは①、我慢し続けていたBさんは②。どちらの状態にいてもBさんは疲弊していきました。アサーティブな③こそが、Win-Winの関係を育む道なのです。
自分が「どの状態」にあるかに気づく
そこで一度、立ち止まって自分を見つめてみてはいかがでしょうか。
私たちの研修では「アサーティブ度チェック」というものをご紹介しています。
たとえば、こんな項目です。
自分の意見や感情を、はっきり表現できる
価値観と合わない要求は、きちんと断ることができる
感情的にならず、相手に自分の気持ちを伝えられる
意見が違っても、正直に自分の考えを伝えられる
不適切な扱いに対して、自分を守る形で適切に反応できる
これらは、特定の相手と場面を思い浮かべながらチェックするのがポイントです。
「威圧的な上司には言えない」「年下の部下にだけ強く言ってしまう」など、自分の傾向がはっきり見えてきます。
ちなみにBさんも、このチェックを通じて「年下の部下には言えない」傾向に気づかれました。「迷惑をかけたくない」「嫌われたくない」という思いが、伝えるべき言葉を飲み込ませていたのです。
感情は「言語化」してはじめて相手に届く
ここからが、私が特にお伝えしたい大切なお話です。
アサーティブな伝え方の鍵は、自分の感情を言語化して、率直に伝えることにあります。
私たちは怒りを感じたとき、つい「なんで守らないんだ!」と相手を責める言葉を投げてしまいます。けれども、その「怒り」の裏には、たいてい別の感情が隠れているものです。「不安」「困っている」「心配」「悲しい」――もっと根っこにある気持ちです。
Bさんの場合は、伝え方を一緒にこんなふうに整理しました。
いかがでしょうか。後者は怒りをぶつけているのではなく、自分の感情と望むことを率直に伝えています。これは攻撃ではなく「自己開示」です。同じ内容でも、相手にとっては格段に受け取りやすい言葉になります。
このように、感情を「言葉にする」ことには、想像以上の力があります。
怒りの裏にある本当の気持ちに気づき、それを率直に表現する。そのときはじめて、あなたの言葉は相手の心に届くのです。
あなたの「言いたいこと」は、伝えていい言葉です
ここまでお読みくださったあなたに、最後にお伝えしたいことがあります。
アサーティブネスは、特別な人だけが持つ才能ではありません。誰でも、今日から少しずつ育てていけるスキルです。
まず、自分が感じている気持ちにそっと気づくこと。怒りの裏に何があるかを言葉にしてみること。そして、相手を責めるのではなく、自分の感情と望みを率直に伝えてみること。
その積み重ねが、やがてあなたのチームに「ここでは本音を言っていい」という空気を育てていきます。それが、いま注目されている心理的安全性の土台にもつながっていきます。
我慢でもなく、爆発でもない。あなたも相手も大切にする伝え方は、ちゃんと存在します。
あなたの「言いたいこと」は、相手に届けていい言葉なのです。
株式会社コーチ&メンタージャパン
髙木明宏
