vol.91「なぜ?」と聞くほど、黙ってしまう理由 〜質問のレパートリーが、信頼関係をつくる〜

原因を聞いただけなのに、返ってきたのは「すみません」だった
以前、ある営業所のY課長が、こんなことを話してくださいました。
「部下に原因を聞いただけなんです。責めたつもりはなかったんですが、返ってきた言葉は『すみません』でした」
Y課長としては、何が起きたのかを知りたかっただけでした。
次に同じことが起きないように、理由を一緒に整理したかっただけです。
ところが、部下にはその質問が「責められている」「詰められている」と伝わってしまったのかもしれません。
管理職やリーダーの立場にいると、そんな場面に出会うことがあります。
「どうして失敗したのですか?」
「なぜ、そんなことをしたのですか?」
このように聞くことは、仕事の現場では決して珍しくありません。
原因を知りたい。理由を確認したい。次に同じことが起きないようにしたい。
管理職としては、そんな思いから出てくる言葉だと思います。
けれども、この「なぜ」「どうして」という言葉は、相手には少し違った意味で届いてしまうことがあります。
こちらは原因を尋ねたつもりでも、相手には「責められている」「詰められている」と感じられる。
その結果、本来聞きたかった原因ではなく、
「すみません…」
「だって…」
「いや、でも…」
という謝罪や言い訳が返ってきてしまうことがあります。
これは、部下の姿勢が悪いからとは限りません。
質問の言葉が、相手の防衛反応を引き出してしまっているのです。
「なぜ?」は便利だけれど、少し強く届く
「なぜ」「どうして」は、原因や理由を尋ねるときの疑問詞です。
ですから、言葉そのものが悪いわけではありません。
ただ、失敗やミスの場面で使うと、少し強く届くことがあります。
人は責められていると感じると、考える前に身を守ろうとします。
謝る。言い訳をする。黙る。話を合わせる。
そうなると、上司が本当に知りたかった「何が起きたのか」「どこを改善できるのか」には、なかなかたどり着けません。
私は、管理職の方とお話しする中で、よく感じることがあります。
それは、多くの方が「部下に考えてほしい」と願いながらも、質問のレパートリーが少ないまま現場で頑張っているということです。
忙しい職場では、短い言葉で確認したくなります。
「なぜ?」「どうして?」「何で?」
けれども、その一言が、相手にとっては「考える入口」ではなく、「自分を守る入口」になってしまうことがあるのです。
原因を聞くなら、焦点を少し変えてみる
では、原因や理由を聞いてはいけないのでしょうか。
もちろん、そうではありません。
原因を確認することは、とても大切です。
失敗から学ぶためにも、再発を防ぐためにも、事実を振り返ることは必要です。
大切なのは、問い方です。
たとえば、次のように聞いてみるとどうでしょうか。
「原因として思い当たることはどのようなことですか?」
「何が理由で、上手くいかなかったと思いますか?」
「この結果になった要因をどう考えていますか?」
同じように原因や理由を尋ねているのですが、受け取る印象は少し変わります。
「なぜ失敗したの?」と言われると、自分自身を責められているように感じるかもしれません。
けれども、「原因として思い当たることはどのようなことですか?」と聞かれると、問いの焦点が“あなた自身”ではなく、“起きた出来事”に向かいやすくなります。
この違いは小さなようで、現場ではとても大きいものです。
質問の意図が伝われば、相手は答えやすくなります。
責められているのではなく、一緒に整理しようとしてくれている。
そう感じられたとき、部下は少しずつ考え始めます。
失敗を責める職場ではなく、失敗から学べる職場へ
職場で失敗が起きたとき、本当に大切なのは、誰かを責めることではありません。
大切なのは、その失敗から何を学び、次にどう活かすかです。
心理的安全性の研究では、意見や質問、失敗を安心して話せることが、チームの学習や成果につながるとされています。
また、Googleのチーム研究でも、効果的なチームの重要な要素として心理的安全性が挙げられています。
ただし、心理的安全性とは、何でも許すことではありません。
ミスを見逃すことでも、責任を曖昧にすることでもありません。
安心して本当のことを話せるからこそ、原因をきちんと見つめることができます。
責められる不安が少ないからこそ、「ここが準備不足でした」「確認が足りませんでした」と、次につながる対話が生まれます。
質問のレパートリーが、信頼関係をつくる
部下育成において、管理職が持っておきたいものの一つが、質問のレパートリーです。
難しいコーチングスキルを、すぐに身につける必要はありません。
まずは、いつもの「なぜ?」「どうして?」を、少しだけ別の言葉に置き換えてみることから始めてみてください。
たとえば、
「上手くいかなかった背景には、どんなことがありましたか?」
「この結果につながった要因を、いくつか挙げるとしたら何がありますか?」
「次に同じことが起きないために、どこを見直せそうですか?」
「今回の経験から、次に活かせそうなことは何ですか?」
このような質問を持っておくだけで、対話の質は変わっていきます。
質問の言葉が変わると、相手の反応が変わります。
相手の反応が変わると、対話の空気が変わります。
対話の空気が変わると、職場の学び方が変わっていきます。
あなたの質問は、相手を守らせているでしょうか。
それとも、相手が考える入口になっているでしょうか。
「なぜ?」を使ってはいけないのではありません。
ただ、それだけに頼らないことです。
原因や理由を知りたいときほど、相手が安心して考えられる言葉を選ぶ。
その小さな積み重ねが、管理職と部下の信頼関係をつくっていくのだと、私は思います。
要約
「なぜ?」「どうして?」は、原因を尋ねるつもりでも、相手には責め言葉として届くことがあります。質問のレパートリーを持ち、相手が安心して考えられる問い方をすることが、信頼関係と学び合う職場づくりにつながります。
