vol.93 チームビルディングは、任せることでつくられる 〜森保ジャパンに学ぶ、W杯の結束力〜

涙ながらに頭を下げた監督の姿
2026年6月29日、ヒューストン。W杯決勝トーナメント1回戦、日本対ブラジル。1‐2の逆転で、日本の挑戦はここまでとなりました。皆さんも、テレビの前で悔しい思いをされたかもしれません。
私が心を動かされたのは、試合結果そのものより、その後の光景でした。森保一監督は、涙を流す選手一人ひとりと抱き合い、声をかけ続けたそうです。そして会見では、涙ながらにこう語っていました。「監督の力が足りなくてすみません」。結果を出せなかった責任を、真っ先に自分が引き受ける。その姿に、私は経営者・管理職として、はっとさせられるものを感じました。
なぜ、あのチームは世界一の結束力と言われたのか
不思議だと思いませんか。優勝したわけでも、ベスト8に入ったわけでもない。それなのに、このチームの結束力は世界一だったと語られています。
あなたの会社ではどうでしょうか。目標未達のとき、チームの雰囲気はどうなりますか。誰かのせいにする空気が漂ったり、頑張った過程が評価されずに数字だけが独り歩きしたり――そんな経験、一度や二度ではないはずです。結果が出なかったときにこそ、そのチームの本当の強さが試される。私はそう思っています。
チームビルディングは、任せることから始まる
森保監督は2023年、監督自身が選手を直接指導する「ヘッドコーチ型」から、コーチ陣に指導を委ねる「マネジメント型」へと舵を切ったそうです。企業の組織づくりに置き換えるなら、いわゆるトップダウンからボトムアップへの転換だといいます。海外組の選手が大多数を占め、監督一人がすべてを見きれない体制だからこそ、権限を渡す選択をした。これは、私が以前の会社で海外拠点のマネジメントに携わっていた頃にも、痛感したことでした。現地のスタッフを信じて任せなければ、組織は前に進みません。
そしてもうひとつ、私が注目したいのは「規律」です。多様な選手をまとめるために、細かい戦術は選手の自主性に任せながらも、チーム全体で共有する規律は明確に保っていたという指摘もあります。自由に任せることと、放任することは違う。軸となる規律を共有したうえで、任せる。この使い分けこそが、あなたの職場のチームビルディングにも応用できる考え方ではないかと思うのです。
私が伝えたいことは、シンプルです。
「結果よりも過程を認め、任せることこそが、チームビルディングの本質になる」
数字で人を評価するのは簡単です。しかし、そこに至るまでの努力や姿勢を見て、言葉にして伝えることは、簡単ではありません。だからこそ、それができるリーダーのもとには、自然と信頼が集まり、強いチームが育つのだと思います。
即時の円陣が物語る、任せることの力
今大会の森保ジャパンには、印象的な習慣がありました。失点の直後、必ずピッチ上で円陣を組み、選手同士で状況を確認し、戦術を共有する。これがチームのルールとして定着していたといいます。
大切なのは、これが監督の指示を待って行われるものではなく、選手たち自身がその場で動いて実行していたということです。任されているからこそ、選手は自らチームを立て直す行動を取れる。これもまた、ボトムアップ型のチームビルディングが生んだ、ひとつの成果だったのではないでしょうか。
精神的な切り替え、メンタルリセットという仕組み
失点というショックを引きずったまま試合を続ければ、動揺は次のミスを生みます。だからこそ、すぐに顔を合わせ、「まだまだいける」「次を取り返そう」と声をかけ合い、気持ちを立て直す。
私はこれを、チーム全体による精神的な切り替え、いわばメンタルリセットの仕組みだと捉えています。
士気を高め合うのが目的であり、個人が一人で抱え込むのではなく、チームで気持ちを立て直す。これもまた、任せることによって選手一人ひとりに主体性が根づいていたからこそ、機能していた仕組みだったのだと思います。
「プロセスを大事にしてくれた」という、ひと言
森保監督は敗戦後の会見で、選手やスタッフについてこう振り返っています。
「今日の試合も全力を尽くしてくれたし、ここに至るまでも日々プロセスを大事にして頑張ってくれた」。
結果は1-2で敗れました。それでも、監督は選手たちの「プロセス」に光を当てました。結果を出せなかったことを叱るのではなく、そこに至るまでの努力を認める。これは口で言うほど簡単なことではありません。特に、経営の数字や納期に追われる私たちのような立場では、つい結果だけを見てしまいがちです。
けれど、任された側の選手たちにも、変化があったように思います。ボトムアップ型のマネジメントのもとでは、選手が指示を待つのではなく、自ら考えて動くようになっていったといわれています。任された人は、責任を持つようになる。信頼された人は、期待に応えようとする。これは、サッカーに限らず、どんな組織のチームビルディングにも共通する原則ではないでしょうか。
結果の前に「過程」を見ていますか
あなたのチームでは、目標を達成できなかったとき、誰が最初に頭を下げますか。
そして、部下やメンバーの「頑張った過程」に、どれだけ言葉をかけていますか。
森保監督のチームは、優勝はできませんでした。けれど、選手たちが誇りを持ってピッチを去れたのは、監督が結果ではなく、そこに至る過程と一人ひとりの努力を、最後まで見て、認めていたからだと私は思います。
結果よりも過程を認め、任せること。それが、あなたのチームのチームビルディングに、本当の信頼関係を生むかもしれません。
株式会社コーチ&メンタージャパン
代表取締役 髙木明宏
出典・参考
・Business Insider Japan「日本代表を変えた『ボトムアップ』マネジメント」
・Diamond Online「『サッカー日本代表森保監督』に学ぶ、多様なチームをマネジメントする極意」
・スポニチアネックス(Yahoo!ニュース)森保監督ブラジル戦総括記事 ・毎日新聞
