vol.86 リフレーミング質問が、相手の可能性を開く


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その言葉が可能性を閉じていた

「私、人前で話すのが苦手で、営業には向いていないと思うんです」

ある日、私のクライアントがそう打ち明けてくれました。

40代の営業マネージャー。実績もあり、部下からの信頼も厚い方でした。それでも、長年ずっとそう思い続けていたと言うのです。

少し俯きがちに、でも正直に話してくれたその言葉に、あなたならどう返しますか?

「そんなことないですよ、大丈夫!」

「慣れれば話せるようになりますよ」

気遣いのつもりでそう言いたくなる気持ち、よくわかります。でも、その言葉が相手にどう届くか、考えたことはありますか?

「励まし」が、相手の心を閉じることがある

「そんなことない」という言葉は、一見ポジティブに聞こえます。でも受け取る側からすると、「自分の気持ちを否定された」と感じることがあるのです。

「自分のことは自分が一番よくわかっている」

そう思っている人に、「そんなことない」と返してしまうと、心の扉がスッと閉じてしまうことがあります。

まず大切なのは、相手の言葉をそのまま受け取ること。

「あなたは自分が人前で話すのが苦手だと感じているんですね」

ただ、それだけでいい。否定も、肯定も、アドバイスもせず

まず、そこから始めるのです。

「短所」は、本当に短所なのか

人前で話すのが苦手。

それは本当に、営業に向いていないことの証拠でしょうか?

私はそうは思いません。

「人前で話すのが苦手」ということは、

裏を返せば、「相手の話をじっくり聴ける人」かもしれない。

「一対一で深く向き合える人」かもしれない。

「準備を丁寧に重ねる人」かもしれない。

見方を変えるだけで、まったく別の景色が見えてくることがあります。

これが「リフレーミング」です。

リフレーミングとは、


リフレーミングとは、「枠組み(Frame)を再構築(Re)する」

つまり、すでにその人が持っている意味づけや解釈を、異なる視点で捉え直すための技法です。

コーチングの会話において、主に以下のような「問いかけ」を通じてリフレーミングを誘発します。

「もし〜だとしたら?」という視点: 「この状況にチャンスがあるとすれば、それは何?」

「その言葉を言い換えると?」: 「心配」を「準備」と置き換えるなど、心理的なアプローチを行う。

文脈(フレーム)を変える :  会社員という立場から「変革者」へと自らの役割を再定義(リフレーム)する。

例えるなら、コップに水が半分入っているとき、「もう半分しかない」と見るか、「まだ半分もある」と見るか 
事実はひとつでも、受け取る側の「枠組み(フレーム)」によって、まったく意味が変わります。

人の「短所」や「弱み」も、同じです。

見る角度を少し変えるだけで、それはいつのまにか「強み」や「個性」に変わっていることがあるのです。

リフレーミング質問は、「教える」のではなく「問いかける」

ここで大切なのは、コーチやリーダーが答えを押しつけないことです。

「それって強みだよ」と言うのではなく、

「人前で話すのが苦手だと感じているんですね。」

その苦手意識が、相手への配慮につながっているとしたら

それは、どんな役に立ちそうですか?

こういう一言が、相手の思考を大きく動かすきっかけになるかもしれません。

「人前で話すのが苦手でも、お客さんと一対一で話すのは好きかもしれない」

「準備をしっかりすれば、むしろ信頼されるかもしれない」

そんなふうに、クライアント自身が自分の中に新しい視点を見つけていく。

その瞬間こそが、コーチングの醍醐味だと私は思っています。

問いかけの瞬間に、人は変わり始める

「それは、どんな役に立ちそうですか?」

このリフレーミング質問を受けたクライアントは、少し考えてから、こう言いました。

「個別にお客さんの話をじっくり聴く場面なら、もしかしたら向いているかもしれないです」

その表情が、ほんの少し明るくなったのを私は今でも覚えています。

人は、自分で気づいたことに対して、最も深く納得します。誰かに言われた言葉より、自分が発見した答えのほうが、行動につながりやすい。

リフレーミング質問は、相手の考え方に広がりを生み、その人の行動や反応にも、やがて変化をもたらしていく可能性があります。

あなたのチームにも、「まだ気づかれていない強み」があるかもしれない

あなたのチームの中に、

「私にはこれができない」「自分はこういうタイプだから無理」

そう思い込んでいるメンバーはいませんか?

その言葉を、「そんなことない」と否定していませんか? あるいは、「そうだね」と、そのまま受け流していませんか?

どちらでもなく、まず受け入れて、そして問いかける。

「それは、どんな(場面で)役に立ちそうですか?」

「この経験は、何かを変えるきっかけになりそうですか?」

たった一つのリフレーミング質問が、相手の世界を広げるかもしれません。

リーダーとしての言葉は、それほどの力を持っています。ぜひ、明日からの会話で試してみてください。

株式会社コーチ&メンタージャパン 代表 髙木明宏


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